教育体系とは、経営戦略の実現に必要な人材を育てるために、対象者・必要な能力・育成方法・実施時期などを体系的に整理したものです。OJT・研修・自己啓発といった複数の育成手段を、階層や役割ごとに一枚の地図として可視化する考え方だと捉えると分かりやすいでしょう。
毎年同じような研修を、目的を問い直さずに実施している
階層ごとの育成方針につながりがなく、場当たり的になっている
OJTが現場任せで、指導内容や質が担当者によってばらつく
研修の目的が明確でなく、参加者にも意義が伝わっていない
研修後のキャリアや役割につながらず、受けっぱなしになっている
思い当たる項目がある場合、原因は個々の研修の内容ではなく、研修を追加する前に「会社としてどのような人材を、どのような方法で育てるか」を体系化できていないことにあるかもしれません。
教育体系とは、企業が求める人材を育成するために、対象者・必要な能力・育成方法・実施時期などを体系的に整理したものです。新入社員から管理職まで、それぞれの階層や役割にどのような能力を身につけてほしいのか、そのためにどの育成手段を使うのかを一枚の地図として可視化する考え方だと捉えると分かりやすいでしょう。
教育体系を一言で言うと、「誰に・何を・どの方法で身につけてもらうかを整理した、人材育成の設計図」です。
※この整理は絶対的な学術的定義ではなく、KeySessionが企業の人材育成を実務上整理する際の捉え方です。
教育体系は「研修の一覧表」ではありません。教育体系には、研修以外にも複数の育成手段が含まれます。
このうち、研修(Off-JTを中心とした研修施策)だけを整理したものが「研修体系」です。研修体系は教育体系の一部であり、両者はイコールではありません(研修そのものの意味や種類は「研修とは」の記事で解説しています)。
教育体系を構築する目的は、育成施策を場当たり的にではなく、経営戦略に基づいて計画的に実行できる状態をつくることです。
個々の研修が「経営として何のために実施するのか」という上位目的につながっていない状態を防ぎます。教育体系を経営戦略から逆算して設計することで、育成施策全体に一貫した目的意識を持たせられます。
新入社員には何を、中堅には何を、管理職には何を身につけてほしいのかを整理することで、階層をまたいだ育成のつながりが生まれます。
「今年も同じ研修を実施する」「話題のテーマだから導入する」といった、目的があいまいな研修を減らせます。教育体系があれば、新しい施策を追加する際にも全体の中での位置づけを確認できます。
厚生労働省「令和6年度能力開発基本調査」によると、OFF-JTを実施した事業所は73.8%(うち正社員向けは71.6%)にのぼります(出典:厚生労働省)。多くの企業が研修を実施している一方で、現場で行うOJTと連動できていなければ効果は定着しません。教育体系で両者の役割分担を整理することが重要です。
全体を一覧化することで、「この階層には育成施策がない」「同じ内容の研修が重複している」といった抜け漏れ・重複に気づきやすくなります。
「人材育成計画」「教育体系」「研修体系」「スキルマップ」「教育体系図」は、しばしば混同されます。KeySessionでは実務上、次のように整理しています。
| 用語 | 主な役割 | 対象範囲 |
|---|---|---|
| 人材育成計画 | 人材育成全体の方針・計画を定める | 最も広い |
| 教育体系 | 育成施策を階層・役割ごとに体系的に整理する | 広い |
| 研修体系 | 研修(Off-JT)施策を整理する | 教育体系の一部 |
| スキルマップ | 必要な能力・習熟度を可視化する | 能力要件 |
| 教育体系図 | 教育体系を階層×育成手段の表で視覚化する | 可視化手段 |
教育体系と研修体系は、しばしば同じ意味で使われますが範囲が異なります。研修体系は、教育体系のうち「研修(Off-JT)」に関する部分だけを取り出したものです。教育体系にはOJTや自己啓発、配置・異動なども含まれるため、研修体系だけを整えても、現場でのOJTや自己啓発が連動していなければ、育成施策全体としては機能しません。研修体系そのものの構築手順・分類軸・見直し方は「研修体系とは」の記事で詳しく解説しています。また、研修体系の中でも「個別の研修をいつ・どのように実施するか」という実行レベルの計画については、「研修計画の作り方」で具体的な手順を解説しています。
人材育成計画は、経営戦略から「どのような人材が必要か」「いつまでに、どの規模で育成するか」といった方針・全体計画を定めるものです。教育体系は、その方針を「具体的にどの階層に、どの育成手段で身につけてもらうか」という実行レベルまで落とし込んだものと位置づけられます。
スキルマップは、社員一人ひとりが「どのスキルを、どの程度習得しているか」を可視化する管理表です。教育体系が「育成の手段・体制」を整理するのに対し、スキルマップは「現在地(能力の保有状況)」を可視化する点で役割が異なります。教育体系を作る過程で、現状把握のためにスキルマップを併用するケースは多くあります(スキルマップの作り方は「人材育成研修とは」の記事で解説しています)。
教育体系づくりでよくあるつまずきは、「研修から考え始めてしまう」ことです。まずは次の5つを整理してから、育成手段の検討に入ります。
今後どのような事業を展開し、どのような組織にしていきたいか。人材育成の出発点になります。
経営戦略を実現するために、どのような価値観・行動特性を持つ人材が必要かを言語化します。
新入社員・若手・中堅・管理職などの階層や、職種ごとに期待される役割を整理します。
それぞれの階層・役割で身につけてほしい知識・スキル・行動を具体的に書き出します。
現在実施している研修・OJT・自己啓発支援などを棚卸しし、後のギャップ把握に備えます。
研修メニューの検討は、この5つを整理した後に行います。先に研修ありきで考えると、経営戦略とつながらない教育体系になりやすいためです。
教育体系は、次の7ステップで整理すると作りやすくなります。ポイントは、STEP6まで研修メニューを一つも決めないことです。
教育体系を作った後は、年間計画として現場の上司・育成担当者に共有し、実際の配属や研修計画に反映させます。そのうえで一定期間ごとに運用状況を確認し、次の章で紹介する見直しを行うことで、教育体系は使われ続ける仕組みになります。
教育体系図とは、STEP7で整理した教育体系を、縦軸に階層、横軸に育成手段を置いた図として視覚化したものです。文章で説明するよりも、誰がどの育成手段の対象になっているかが一目で分かるようになります。
簡単な例として、階層ごとの主な育成手段を整理すると次のようになります。
実際の教育体系図では、この図に「共通スキル」「マネジメント」「専門スキル」など横軸のカテゴリを増やしたり、階層を経営層まで広げたりして作成します。テンプレートや詳細な作図手順は「研修体系図とは」で解説しています。
ここまでの「育成目的の整理」「階層×育成手段の教育体系」をそのまま入力できる形式で、無料テンプレートを配布しています。Excel・Googleスプレッドシートで開いて、自社の内容に書き換えるだけで使えます。
無料テンプレート・Excel形式(全4シート)
教育体系シート
①育成目的整理シート②教育体系シート(階層×OJT・Off-JT・自己啓発)③記載例④使い方ガイドの4シート構成です。自社の内容に書き換えるだけで、教育体系の土台まで整理できます。
ご入力いただいたメールアドレス宛に、ダウンロードURLをお送りします。送信をもってプライバシーポリシーに同意したものとします。
従業員200名程度のBtoB向け機械部品メーカーを想定したモデルケースです。実在の企業の制度ではなく、教育体系の考え方を理解するための例としてご覧ください。
| 階層 | 求める役割 | 必要能力 | OJT | Off-JT | 自己啓発 |
|---|---|---|---|---|---|
| 新入社員 | 基本業務の習得 | ビジネスマナー・報連相 | 先輩社員による日常指導 | 新入社員研修(集合) | 業界基礎知識の学習 |
| 若手 | 担当業務の独り立ち | 実務スキル・課題発見力 | 担当業務の幅出し | 実務スキル研修 | 関連資格の取得 |
| 中堅 | 後輩指導・業務改善 | 指導力・業務設計力 | 後輩のOJT担当 | OJTトレーナー研修 | 専門分野の通信教育 |
| リーダー | チームの目標管理 | 目標設定・進捗管理力 | 小規模チームの運営経験 | リーダーシップ研修 | マネジメント関連書籍 |
| 管理職 | 組織成果への責任 | マネジメント・評価力 | 部下育成・評価者経験 | 管理職研修 | 外部セミナー・勉強会 |
この例のように、階層が上がるほど「教える側」としての役割も加わることを教育体系に組み込んでおくと、OJTの質が特定の担当者に依存しにくくなります。
教育体系は一度作って終わりではありません。次のような変化があったときは、見直しを検討するタイミングです。
「年に1回は必ず全面改定する」といった決まったルールがあるわけではありません。上記のような変化が生じたタイミングで、教育体系全体または該当する階層だけを見直すのが現実的です。
現在実施している育成施策と、教育体系図の内容を照らし合わせます。
現在の経営戦略・事業計画と、教育体系が前提としていた戦略の間にずれがないか確認します。
環境変化を踏まえ、階層ごとに求める人材像・能力を更新する必要があるか検討します。
新たに必要になった能力への対応が抜けていないか、逆に重複している研修がないかを確認します。
すべてを一度に変えようとせず、影響の大きい階層・施策から優先的に見直します。
教育体系図・年間計画を更新し、関係者に共有します。
受講率や行動変容などの指標を設定し、次の見直しにつなげます。
せっかく作った教育体系が使われなくなるのには、共通した原因があります。
研修ありきで作られ、経営戦略と切り離されている
求める人材像があいまいなまま、育成手段だけを決めている
現場の管理職が策定に関与しておらず、他人事になっている
研修を受講すること自体が目的化している
効果測定のKPIが設定されていない
作成した後、一度も更新されないまま放置されている
ここまで教育体系そのものの作り方を解説してきましたが、教育体系は、人材育成計画を具体的な育成施策に落とし込む段階で設計するものです。経営戦略から人材育成全体を組み立て直したい場合は、教育体系を作る前に、人材育成計画の立て方・策定支援の考え方から整理することをおすすめします。
すでに人材育成計画があり、それを教育体系まで具体化したい場合は、本記事のSTEP1〜7がそのまま次のアクションになります。
教育体系づくりは、次のような理由でつまずくケースが少なくありません。
こうした場合は、外部の支援を活用するという選択肢もあります。KeySessionの人材育成計画 策定支援では、現状診断から求める人材像の整理、教育体系図・年間計画への落とし込みまでを、経営戦略から逆算する形で支援しています。
教育体系を作る目的は、研修をきれいに並べることではありません。経営戦略から必要な人材・能力・経験を逆算し、育成施策を継続的に実行できる状態を作ることが本来の目的です。
そのためには、いきなり研修メニューを検討するのではなく、経営戦略の確認、求める人材像の定義、階層ごとの役割整理という順番を踏むことが欠かせません。そして一度作った教育体系も、環境の変化に合わせて見直し続けることで、初めて機能し続ける仕組みになります。
教育体系を構築する前段階として、自社の人材育成全体の方針から整理したい場合は、人材育成計画の立て方・策定支援もあわせてご覧ください。
教育体系だけでなく、教育体系・求める人材像・年間人材育成計画まで整理したい企業は、人材育成計画の策定支援をご覧ください。